新型コロナウイルスの検査法の感度ややり方について書いてみた
2020-02-19
このエントリは新型コロナウイルスの対処法とかあれこれ書いてみたの続きです。
前エントリでは新型コロナウイルスの対処法を書きました。
このエントリでは、RNAウイルスとは?とか、ウイルス検査ってどうやってするの?っていうのを超簡単に正確に書いてみたいと思います。(←自分にプレッシャーかけるやつ)
Contents
新型コロナウイルスはRNAウイルス
RNAとは?
みなさんはDNAを御存じでしょうか?
DNAとは、私たちの体を構成する設計図(遺伝情報)が書き込まれているものです。よく、図書館にたとえられます。
そしてこの設計図の中には、約2万5000個ほどの遺伝子が入っています。よく、本にたとえられます。
想像しやすく言うと、図書館の中に2万5000冊の本がきちんと整頓されて入っている。ってことです。
このDNAの中にある本を元にしてタンパク質が作られ、そのタンパク質が集まって、皮膚とか目とか口とかを作るわけです。
実際に本を読むとき、人間の体の中ではどうするか?というと、本をコピーするんですね。
DNAは二本鎖なので、ほどいて、一本鎖にして、そこにコピー機を置いて、コピーするわけです。
この時にコピーされたものがメッセンジャーRNA(mRNA)です。※実際は未成熟なメッセンジャーRNA(pre mRNA) が作られて、その後、mRNAになります。
なんでメッセンジャーというかというと、遺伝情報を運んでいくからです。一般的にRNAというと、このmRNAを指すことが多いです。
このRNA (pre mRNA)が実はウイルスの正体なのです。
プラス鎖のRNAとは?
RNAはコピーされるということを書きました。
では、実際のRNAはどうなっているでしょう?
DNAは二本鎖で出来ています。コピー機はそのうちの一本をコピーします。
二本の鎖のうち、どっちをコピーするか?は決まっていて、実際はプラス側(5’側)からマイナス側(3’側)への順番でできるようにコピーします。
この図でいう矢印の方向ですね。
二本鎖のDNA(青色と黄色)を引きはがして、遺伝情報の載っている5’→3’(DNAの青色)とは反対側の黄色で書かれているTACCCC・・・っていうDNAのほうにくっついて、コピーすることで、RNAは5’→3’のものができます(mRNAってかかれてるやつ)。
DNAからRNAへのコピーは、
T→A
A→U
G→C
C→G
と変換されるので、TACCCCはAUGGGGとコピーされてきます。
5’側から3’側へと遺伝情報がコピーされているものをプラス鎖(+鎖)といいます。
新型コロナウイルスは+鎖のRNAウイルスですので、ウイルスの情報(体を構成するタンパク質の情報など)が5’側から3’側へと記載されている。ということです。
新型コロナウイルスの遺伝情報
新型コロナウイルスのRNAは、一つの遺伝子を持っているだけじゃないんです。
実は、一つのRNAでたくさんのタンパク質を作れるのです。
下の図でいうPLとか3CLとかDMVとか、ウイルスを構成するすべてのたんぱく質をの遺伝情報を一つのRNAがもっているんですね。
いわば、ウイルスを作るための簡易図書館ってとこです。
https://zhuanlan.zhihu.com/p/103948783より
で、このウイルスが感染しているかどうか?を見るために、このRNAが人の体の中にあるのかないのか?をチェックする検査方法がRT-PCRと言われているものです。
RT-PCRの原理
RT-PCR(アールティーピーシーアール)は、リバース トランスクリプショナル ポリメレース チェイン リアクション (Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction)と読みまして、日本語だと、逆転写ポリメレース連鎖反応って言います。めっちゃ難しいですよね!でも、原理を知れば簡単です。
逆転写(RT)
まず、最初の「リバース トランスクリプショナル(逆転写)」ですが、3’から5’への逆コピーの事です。
RNAは一本鎖です。一本なので、その相方をコピーで作っちゃおう!ってことです。
この図で説明しますと、RNAがあります。この3’側(右側)に、RNAにくっつくような配列のプライマーというDNAをくっつけてあげます。
そうすると、3’側だけ、二本鎖になりましたね。
あとは、そのプライマーの左端から5’→3’の方向(この図でいうと右側から左側)にどんどん相補的なDNAをくっつけていきます。
この時にDNAをくっつけていく装置が、逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ)といいます。
普通は、DNAからRNAがコピーされて作られるんですが、その逆、RNAからDNAを作ってくれる酵素が逆転写酵素なのです。
こうすることによって、RNAとDNAのハイブリットな二本鎖が出来上がります。
これが、RT(リバース トランスクリプショナル)のことです。
その下のDNAampって書いてあるのが、DNAを増やすよ!ってことです。これは、PCRってのを使います。
ポリメレース チェイン リアクション(PCR)
次は、残りのPCR(ポリメレース チェイン リアクション)です。
日本語でいうと、転写酵素(ポリメレース)による連鎖反応です。
これも原理は簡単です。
DNAは95℃とかの温度にすると、二本鎖がほぐれて一本鎖になります。
なので、さっきのRTで二本鎖になったものを熱で1本鎖にはがしてあげます。
この下の図でいう右上の状態ですね。DNA(もしくはRNA)が熱で一本鎖になりました。
そこに登場するのがさっきのプライマーと、3’側にくっつくためのプライマーです。プライマーは二種類です。
このプライマーはだいたい53℃~60℃くらいの時にDNAにくっついてくれます。
図の右下ですね。
DNAにプライマーがくっついたら、今度は転写酵素という、DNAからDNAを作れる酵素を使用して、プライマーを起点に、5’から3’の方向へとDNAを相補的にどんどんくっつけてあげます。
図の左下ですね。
そうするとあら不思議、最初二本鎖の一つのDNAだったものが、二つの二本鎖DNAに増えました。
この二つに増えたものをまた温度を95℃にして、一本鎖にして、またプライマーをくっつけて、転写酵素でDNAをつくっていくと、今度は4本の二本鎖DNAができました。
さらに、もう一度繰り返すと、今度は4→8本に!さらに繰り返すと8→16→32→64→128→256・・・・と、繰り返せば繰り返すほどDNAが増えてくるんですね。
目に見えるようにまで増えるのにだいたい25サイクルくらいまわします。
これが転写酵素による連鎖反応(PCR)です。
全部でだいたい2時間くらいです。
この反応ができるようになったのは、温泉や海底火山などに住む生き物から72℃くらいでDNAを転写してくれる酵素をゲットできたからです。
人間の体の中にある転写酵素は46℃とかになるとへばっちゃうんですが、熱いところで生活している生き物の転写酵素は95℃に温度を上げても死なないんですね!
なので、DNAをはがすのに95℃にしても大丈夫なんです!すごいですね。
今までは、転写して、DNAを剥がしたら転写酵素がへばっちゃってたので酵素を追加したりしないとダメだったんですが、この転写酵素の発見により、転写酵素の追加なしにDNAはバンバン増やせるようになりました。
ウイルスの検出法
さて、このRTからのPCRにより、RNAからDNAを作り、それを増やせることがわかりましたよね?
RNAウイルスには当然RNAが入ってますから、そのRNAを取ってきて、DNAにして、増やせばいいんですね。
もし、RNAウイルスに感染していれば、DNAとしてバンバン増えてくるはずです。
もし、感染してなければ、どんだけRTPCRをしてもDNAは増えてきません。
だから、増えてきたら陽性(ウイルス有り)
増えてこなかったら陰性(ウイルス無し)って判断ができるってことです。
ただ、問題がいくつかありまして、一番重要なのはRNAって一本鎖なので、切れたり壊れたりしちゃいやすいんですね。
DNAは二本鎖でがっつり守られてますからなかなか切れないのですが、RNAはすぐに壊れちゃいます。
なので、ウイルスからRNAを取り出すのは素人には無理なんですね。
2年くらい修行したらRNAを取り出すのは余裕になります。(ちなみに私は10年くらいやってました。)
下手くそがやると、ウイルスがいても、RNAが壊れちゃって、RTPCRで増えてこないから「陰性」ってなる場合があります。
もう一つの問題としては、プライマーの設計です。
これを素人さんがやると、増えてこない場合があります。
プライマーにはちゃんとRNAやDNAにくっつかさせれる配列と温度設定ってのがありまして、これも数年やってたらだいたいわかるようになります。
PCRには二つのプライマーを使うので、その相性がちぐはぐだったりすると、増えてきません。
私はこれも10年くらいやってまして500本以上のプライマーを作ってきましたが、失敗したのは10本くらいやと思います。これもセンスです。
自称感染症医さんが、RTPCRはすぐには結果が出ないし、感度が30~50%くらいしかないし、一回に1万数千円する。とかって言ってましたが、デマです。
感度が低いのはRNAの抽出が素人か、プライマー設計がお粗末だったか、そもそも技官の腕が悪いのかです。
RTPCRの感度は90%以上はあります。
また、コストも、プライマーが二種類で2000円(1万回くらい使えます)RNA抽出キットやRT-PCRキットを使ってもだいたい5千円ほどです。
マジっすか? pic.twitter.com/2faLX4vBlq
— いいな (@iina_kobe) February 10, 2020
【ファクトチェック】コロナウイルスの検査に1万数千円かかるという話の出所を調べてみたよ【新型肺炎】
というわけで、わからないことがあったらツイッターでどんどん質問してくださいね。
コメント
宮庄宏明
質問です。
1.COVID-19を検出した場合は、COVID-19に固有の部分に対応したプライマーを設計する必要がある、という理解で正しいでしょうか?
2.プライマーの取り付く部分と同じ配列を持つ、既知の他のウイルスが存在しないことを確認してからプライマーを設計するのでしょうか?
3.だとしても、未知の同じ配列を持つウイルスを増幅しないとは言い切れませんよね?プライマーの取り付く部分しか限定しないので、その他の部分はどのような配列であっても同じように増幅してしまいますよね。正しいですか?
4.感度が90%以上と書かれていますが、現場の声はもっと低く、せいぜい70%という声が多いようです。現場では実験室での理想的な環境とは違って、感度を高く維持するのは難しいということはないでしょうか?検査技師の腕も影響するでしょうし。
5.COVID-19用のプライマーは全世界共通のものが使われているのでしょうか?また、そのプライマーの設計品質は検証されているのでしょうか?
宜しくお願い致します!
iina-kobe
1.そうです。
2.そうです。
3.プライマー配列は4^25×2の確率で一致しますので、物理的に他の配列を増幅する事は難しいです。下手くそがプライマー設計をすると違う配列を増幅しちゃうこともあります。
4.感度はほぼ100%です。実際の「精度」はRNAを取り扱った事のない人がやったりすると70%ほどになるのでしょう。しかしながら、サンプル数を増やすと解決できます。
5.世界中で異なりますし、品質保証もありません。
yumi onishi
あまりPCR検査に詳しくない者です。
素朴な質問で、大変恐縮なのですが以前より非常に疑問に思っていて調べてもあまり良い内容に行きつかないのでご質問させていだたきます。
PCRはプライマーあっての検査と思っています。最近の報告では中国で当初蔓延したコロナと、欧米やヨーロッパで蔓延したコロナは型が異なっており日本も欧米型が入ってきている状況を資料で拝見しました。
除去の手間があってもちゃんとターゲットを拾えるようにランダムプライマーも使いながら複数のスペシフィクプライマーで検査をされているとしても
どんどん変異のスピードも上がっていると報道もある中、新しい型のコロナだと今使用されているプライマーで拾えるのでしょうか?
今わかっている型のプライマーはすでにあると思うのですが、
検査しても陰性というのは感度の問題とは別に
新しい型の可能性もある という理解は間違いでしょうか?
新しい型のプライマーも販売されていると思いますが、
そもそもそのプライマーも
検査しても陰性、でも症状が出る。
シーケンスして今までの型との差を見る。
特異的な部分をみつけてプライマーを作る。
という作業をされて商品化されるのでしょうか?
PCR PCRと検査量や頻度の話ばかりだなと思っています。
日本は他国と比べ感染が抑えられているとの見方ですが
もし日本でコロナが変異し、拡散したら、検出できないのではないか
と気になっています。
自宅養生の方の突然死のお話も頻繁に耳にするようにもなりました。
他国でも同様な状況なのかもしれませんが。。
お手すきの時でかまいませんのでよろしくお願いいたします。
iina-kobe
プライマーの配列は変異の入りにくい部位に作られていますのでかからなくなる事はまずないです。
万が一変異が入ったとしてもプライマーは2日もあれば合成できるのですぐに対応できます。