新型コロナウイルスのRTPCR検査の感度と特異度と精度の違いを簡単に説明してみた
2020-05-06
新型コロナウイルスの蔓延を阻止するために自宅待機している皆様お疲れ様です。
補償が出るまでの我慢ですので頑張りましょう。。。
さて、今回はみんなが混乱しているであろう感度と特異度と精度の違いについて説明したいと思います。
※表などを大幅改定しました!
Contents
精度とは
新型コロナウイルスと診断されるまでの過程
新型コロナウイルスに感染している(いた)と診断されるまでには、
1.検体の採取
↓
2.検体の保存および検査場への運搬
↓
3.検体からのRNAの抽出
↓
4.RNAの保存
↓
5.RTによるcDNAの合成
↓
6.PCRによるcDNAの増幅
↓
7.cDNAが増幅されたかどうかの確認
という過程を踏みます。
この1~7までの過程で、本当に感染している人を陽性、感染していない人を陰性と正しく判断できる確率を精度といいます。
医学界ではしばしば、この1~7までの過程の「すべてを含んだ場合の感度と特異度」を総合して精度と呼びます。
RNA抽出までの精度
しかしながらここで落とし穴があります。
この過程の1~4までは、人の手による影響が大きいのです。
医師によって検体採取の手技の熟練度に違いがあります。
検体の保存方法や保存期間にも違いがあります。
検体からのRNA抽出の手技にも熟練度によって違いがあります。
抽出されたRNAをどう保存するのか?にも違いがあります。
よって、この1~4の過程では、精度は人の熟練度によってまちまちなのです。
なので、この1~4のプロセスをだれでも同じように確実に行えるようなプロトコル(やり方、方法)が必要なのです。
このプロセスが下手くそだと、そもそもRTPCRはうまくいきません。
よって、検査全体の精度がガクンと落ちます。
RTPCRの精度
手技の熟練度がたくさん影響する1~4のプロセスとは違って、5~7のプロセスであるRTPCRはほとんど機械が行います。
この過程は、単に試薬とRNA検体を入れていくだけの作業なので、「人的ミス」がなければ精度はほぼ95%以上に保たれております。
ここでいう人為的ミスとは、
・サンプルの取り違え
・サンプルの汚染(コンタミネーション)
・RNase等の汚染によるRNAの分解
・プライマーの作成ミス
などを意味します。
これらのミスが起こることは非常にまれですので、一般的にRTPCR自体の精度は95%以上となっています。
2016年の昔のTaqManプローブを用いた手法でも90%以上(従来のnested-RTPCRはほぼ100%)です。
精度を射撃にたとえると
一般の人にはちょっと理解できないかもしれませんので、射撃にたとえますね。
屋内で的を狙って銃を撃つとします。
弾を込めて、命中補正を行い、銃を撃ちます。
この時、すべての動作を機械にやらせたらどうでしょう?
百発百中ですよね?
精度100%です。
しかし、これを人間が行った場合
・手振れが生じます。
・呼吸に合わせて照準がずれます。
この時、グンと命中精度が落ちます。
屋外で風があったり、距離が遠かったりした場合、熟練度による補正が機能しなければさらに命中率(精度)は落ちます。
RTPCR検査は射撃と同じなのですね。
PCR検査の1~4の過程と同じく、射撃も人による熟練度によって精度はぐんと落ちてしまいます。
病院の検査の場合、誰でも同じようにきちんとある程度の精度を保って診断できるように診断キットは作られております。
しかし、今回の新型コロナの場合、キットがなく、相手が相当の熟練度を要するRNAだったので、病院や検査機関によって精度がまちまちになっているんですね。
これはPCR検査の感度や精度は30~50%や70%だというデマの出所の論文を読んでみたでも紹介しているとおりです。
要するに、RTPCR検査自体の精度は1~4のプロセスに依存します。
追記
射的でいうと、的があるかないかを見抜く能力が特異度。的があれば的がある。無ければない。と正確に判断できるかどうか?が特異度。
的がないのに的がある!と判定されるのが偽陽性。
的にきちんと弾を当てれるかどうか?が感度。的があるのに当たらなければ偽陰性になる。— いいな (@iina_kobe) July 23, 2020
それらを総合的にみて、何枚の的があり、何枚の的に命中させれるか?の的中率を判定するのが精確度。
お医者さんは「感度」を二つの意味で使っている。分析感度(このツイートでいう感度)と臨床的感度(このツイートでいう精確度)。だから医師は感度という言葉を使い分ける必要がある。
— いいな (@iina_kobe) July 23, 2020
例として、民間人と犯人がランダムに出てくる射的ゲームを想定する。
犯人だけ射ち、民間人は射っちゃダメ。特異度が低いと民間人も犯人も見分けがつかず全部射っちゃう。
感度が低いと犯人が出てきても当たらない。
きちんと民間人と犯人を区別して犯人だけ正解に射てたら「精確度」が高いとなる。— いいな (@iina_kobe) July 23, 2020
もし、RTPCR検査全体の精度が50%であった場合
本当に感染している人を陽性、感染していない人を陰性と正しく判断できる確率を精度といいます。
もし、巷でうわさされているように、RTPCR検査全体の精度が50%であった場合、感染している人と感染していない人とをコイントスの裏表によって決めているのと同様となります。
つまり、50%の精度で検査したら、陽性でも陰性でも、二人に一人は陽性と判断されてしまうわけですね。
つまり、陽性率が50%となります。
実際、そんなわけないですよね。
RTPCR検査の精度が50%なんだとしたら、そんな検査は役に立たないわけです。
2020.5.4の韓国の検査数は2948件。新規の陽性者は8人です。
つまり、きちんと陽性者か陰性者かを判断できているというわけです。
陽性者8人が真の陽性者だった場合の的中率(精度)は2940/2948x100=99.7%です。
感度(sensitivity)とは
ウィキには
医学における感度とは、臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する確率」として定義される値である。
感度が高い(高感度である)、とは、「陽性と判定されるべきものを正しく陽性と判定する可能性が高い」、あるいは「陽性と判定されるべきものを間違って陰性と判定する可能性が低い」という意味である。
と書かれております。
検体採取からRNA抽出までの感度
検体採取からRNA抽出までの感度は、
陽性者のウイルスをきちんととれていて、ウイルスのRNAをきちんと抽出できているか?
で決まります。
なので、これは検体採取者の熟練度によります。
鼻の奥にきちんとスワブをあてられていないような人がやると、感染者なのにウイルスRNAが抽出できないってことになり、偽陰性が増える原因となります。
RTPCRの感度とは
RTPCRにおける感度とは、陽性の人のウイルスゲノムRNAをきちんと増幅できるかどうか?
で決まります。
陽性の人の場合はその人から抽出されたウイルスRNAにきちんとプライマーやプローブがくっつき、cDNAを増幅させれる確率が感度です。
感度100%だと、陽性の人はすべて検出されるという意味です。
この時、偽陽性が出ていても陽性の人がきちんと陽性と判断されていれば感度は100%となります。
特異度(specifisity)とは
ウィキには、
特異度(とくいど)とは、臨床検査の性格を決める指標の1つで、ある検査について「陰性のものを正しく陰性と判定する確率」として定義される値である。
と書かれています。
この時、偽陰性が出ていても陰性の人がきちんと陰性と判断されていれば特異度は100%となります。
検体採取からRNA抽出までの特異度
感染していない人の検体採取に感染者のウイルスを汚染(コンタミ)させちゃうと、非感染者なのにウイルスゲノムがあるので偽陽性となります。
偽陽性とは、感染していないのに陽性となることです。
RTPCRの特異度とは
RTPCRにおける偽陽性の原因は
・感染していない患者の検体に感染したウイルスゲノムによる汚染がある場合
・チューブなどに目的ウイルスゲノムの汚染(コンタミ)があった場合
・プライマーが非特異的にウイルスゲノム以外にもくっついてしまう場合
・PCRのサイクルを40サイクル以上回してしまった場合
などがあげられます。
PCRの特異性はものすごく高いです。
理由は、ATGCの4塩基の配列が25個順番に並んでいる配列3つが1000塩基以内に存在していることが条件となるからです。
ATGCのどれか一つが順番に25個並ぶ確率は(1/4)^25です。これが1000塩基以内に3つ存在する確率は標的遺伝子以外にはありません。
1,125,899,900,000,000分の1の確率のものが3つです。
まあ、あり得ませんよね。
なので、PCR自体の特異度はほぼ100%です。
目的のcDNAが4コピー程度あればかかってきます。
厚労省の病原体検出マニュアル2019-nCoVでも、2~7コピーで検出可能となっております。
この特異性の高さから、標的遺伝子がない場合はかかってこないのです。
特異度はほぼ100%です。
もちろん、標的遺伝子が2コピーでもコンタミしてたら検出されます。
RTPCR自体はきちんと運用されていればそれだけ感度も特異度も高いのです。
実際のRTPCRの感度と特異度
実際のRTPCR自体の感度と特異度がどれくらいなのか?は、
感染研が用意した陽性検体10検体と陰性検体15検体をどれだけの精度で検出できるか?
を調べたらわかります。
臨床検体を用いた評価結果が取得された 2019 nCoV 遺伝子 検査方法について
この陽性検体の10検体のうち2検体はRNAコピー数が10〜20コピー(ウイルス粒子が10~20個分)と少なめとなっています。
この表を見る限り、ほとんどのキットが感度、特異度とも100%と正確に検出できています。
この結果から、RTPCR検査全体の精度が落ちる要因は、前述の通り、検体の取り扱いにあると結論できます。
実際のRTPCR検査の感度と特異度の出し方
では、実際にどのようにして感度と特異度が出されているのか?を見てみます。
ここでは、
200人調べて、実際の陽性者30人、実際の陰性者170人だった場合を仮定します。
感度、特異度は以下の図のように計算します。
検査1
検査1では、200人調べて、陽性者が20人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=0人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=10人
なので、この検査の場合は 感度66.7%、特異度100%となります。
精度は190/200x100=95%です。
検査2
検査2では、200人調べて、陽性者が40人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=10人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=0人
なので、この検査の場合は 感度100%、特異度94.1%となります。
精度は190/200x100=95%です。
検査3
検査3では、200人調べて、陽性者が33人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=5人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=2人
なので、この検査の場合は 感度93.3%、特異度97.1%となります。
精度は193/200x100=96.5%です。
検査4
検査4では、200人調べて、陽性者が26人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=3人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=7人
なので、この検査の場合は 感度76.7%、特異度98.2%となります。
精度は190/200x100=95%です。
検査5
検査5では、200人調べて、陽性者が38人だった場合です。
(※実際の陽性者30人、実際の陰性者170人)
この時、
本当は陰性なのに誤って陽性となった人(偽陽性)=15人
本当は陽性なのに誤って陰性となった人(偽陰性)=7人
なので、この検査の場合は 感度76.7%、特異度91.2%となります。
精度は178/200x100=89%です。
ちなみに、RTPCR自体の特異度はほぼ100%ですので、現在の日本においても、RTPCR検査全体の精度は約90%程度もしくはそれ以上でしょう。
まあ、どうしようもない技師や医師が検査に関わっていなければの話ですけどね。。。
コメント
もしろみ
感度・特異度の理解が誤っていると思われます。
「検査1」の手前の四分図までの、感度や特異度の説明は合っています。
しかし、「検査1」の例以降最後までの説明は誤りです。
例示してある「検査結果」と「真の状態」の数値条件だけでは、四分図の中が一意に決まりません。
例えば「検査1」であれば、例にあるような結果となるようなものには
ア 実際陽性かつ検査陽性=0 真陽性
イ 実際陰性かつ検査陽性=20 偽陽性
ウ 実際陽性かつ検査陰性=30 偽陰性
エ 実際陰性かつ検査陰性=150 真陰性
というパターンもありえますので、計算すると
・感度=ア/(ア+ウ)=0%
・特異度=エ/(イ+エ)=88.2%
「精度」=(0+88.2)/2=44.1%
と、大きく変わってきます。
感度が0の検査は、誰がやっても意味がありません。
そのようなデータだけから感度と特異度を導き、そして精度を導くのは誤りとなります。
つづき
さきほど、パターンが一意に定まらないという意見をさせていただきましたが、感度や特異度そのものについての理解が誤っていると考えたのは、下の計算からです。
検査1)での、いいなさんの計算をみてみましたが、偽陽性がゼロとした場合の感度の計算は、20/30で66%ではないでしょうか。
逆に感度が75%とした場合、偽陽性はマイナス2.5人となってしまい、その感度はありえないことになってしまいます。
特異度は、いいなさんの計算どおり170/170で100%ですが。
検査2)〜検査5)をザッと拝見させていただいても、いずれについても計算が誤っており、おそらく「感度」「特異度」の理解を誤っているのではないかと推察されます。
「感度」の分母は「実際の陽性者数」、「特異度」の分母は「実際の陰性者数」ですから、検査1)〜検査5)いずれに関しても、感度の分母は30、特異度の分母は170となります。
検査1)〜検査5)につきましても、いちど四分図を完成させてから計算されると、理解が進むものと思います。
今後ともわかりやすい解説を、ぜひよろしくお願いいたします。
iina-kobe
真陽性の数が間違っておりましたので、後程訂正します!ありがとうございます。
つづき
連投すみません。「的中率」についてです。
韓国の表のところ、なんとなく読み流していしまいましたが、検査で陽性になった8人がすべて真の陽性というだけでは、陽性適中率は100%となり、陰性適中率0%から100%までとりうるため、不明となります。極端な話、「被検者全員が実は陽性」なのかもしれないからです。
いいなさんの使われている「的中率」の用語がもうひとつ曖昧ですが(2940/2948、というのがよく分かりませんので)、検査で使われる一般的な意味での的中率、すなわち「陽性適中率」「陰性適中率」は。
陽性適中率=「検査陽性者の中での真の陽性者数」/「検査陽性者数」
陰性適中率=「検査陰性者の中での真の陰性者数」/「検査陰性者数」
となります。
韓国はスピーディーに抑え込みに成功していますから上記のように極端な形ではないですが、その表の情報のみから「的中率」の計算は難しいものと思います。