RTPCRをしたことのない人の勘違いについて書いてみた
2020-03-23
PCR検査の感度は30~50%や70%だというデマの出所の論文を読んでみたで、PCR検査の感度が30%とかになる理由が、
検体採取後にRNAを壊してしまっているからだ
と説明しました。
しかしながら、未だにPCR検査=意味がないと言っている人がたくさんいますので、その人らが勘違いしているであろうことを書いておきます。
Contents
RNA抽出について
検体を取り扱うのには資格が必要
RNAは非常に壊れやすいものでして、素人さんには到底扱えるものではありません。
当然、訓練を受けていない医師にも取り扱えるものではありません。
しかしながら、
検体を取りそこからRNAを抽出するという作業を行うには、資格が必要
でして、その資格がないとそこには手を出せません。
RNA抽出は簡単
実際のRNA抽出はごく簡単なものです。
検体をインフルエンザの時に使うような長い綿棒(スワブ)で取り、RNA抽出用の試薬であるISOGENの中で混ぜ、クロロホルムを混ぜて遠心し、上澄みをエタノール沈殿させるだけです。
作業時間は検体採取に1分、混ぜるのに1分、グリコーゲン入れて遠心が終わるまで10分待っておく。これくらいです。
こうすることによって、RNAは10分程度で簡単に取れ、しかもこの状態であれば分解せずに運搬することも可能です。
RNAにしちゃえばウイルスは感染の能力を失ってますので、資格がなくても誰でも取り扱えます。
感染研のRNA抽出プロトコルは無駄な作業が多い
しかしながら、感染研のプロトコルでは余計なことをたくさんしているため、RNAを壊してしまっている可能性があります。
なぜ、こんな無駄なことをやって、抽出に一時間以上かけているのか、謎です。
RNA抽出がダメダメでも日本のPCR検査が実際に機能している理由
こんなレベルの低い抽出作業をしていても、PCRはほぼ100%の精度を保っていると思われます。
その根拠は、
きちんと陽性、陰性を見分けられており、決して精度70%、つまり感染者を10人検査したら3人は見逃しちゃう。なんてことにはなっていないから
です。
例えば院内感染した例でも、すべての人を調べて、すべての人が陰性だと病院は再開しております。
100人調べて30人を見逃している!なんてことにはなっていないわけです。
当該病棟に関わった医師と全看護職員および関係したコメディカル部門の職員に対し、3月20日~21日にPCR検査が実施され、全て陰性であったことが確認されました。
これらの結果から、3月24日より初診を含む外来診療と新規入院を再開することといたしました。
RNAの抽出がダメダメで、PCRの精度が70%でもほぼ100%の感度が出るの?
じゃ、なんで、RNAの抽出がダメダメで、PCRの精度が70%でもほぼ100%の感度が出ているのでしょうか?
理由は簡単です。複数のサンプルをチェックしているからです。
一般の人やPCRを知らない医師は、PCR検査=インフルの検査キットのように一回だけチェックだと思っています。
たしかに、インフルエンザのキットは、一人一個しか使わないので、そのキットの精度が80%なら、20%の見逃しがあります。
しかしPCR検査は実際はそうではありません。
TaqMan™ 2019-nCoV Assay Kit v1にも書かれているように、
RTPCRは一人につき検体2つ(喉と鼻など)x3サンプルの合計6サンプルを一度にチェックします。
そして、陽性となるのは、6つのうち、2つ以上にDNAの増幅が見られた場合です。
陰性となるのは、すべてのサンプルにおいてDNAの増幅が見られなかった場合です。
ちなみに、PCRは一度に96サンプルを処理できますので、一度に12人ほどチェックできます。
6サンプルチェックした時の精度は99.92%
偽陰性の確率は0.0729%
もし、70%の精度でも、6サンプルのすべてが陰性となる確率は、3^6/10^6×100=729/1,000,000×100=0.0729%です。
つまり、「RNAがちゃんと抽出できていれば」、99.92%の確率で判定できる。ということです。
ちなみに、感染の初期からウイルスは喉や鼻に存在していることは論文で明らかとなっています。
偽陽性の確率はほぼゼロ
感染していないのに、偽陽性となる場合は、ネガティブコントロールも陽性となっているかどうかをチェックします。
ネガティブコントロールがかかってないのに6サンプルすべてがネステッドまでして陽性となる場合は、素人がしない限りはありません。
きちんとプロトコルを確立していたらそんなことは99.9%起きません。
また、陽性となった人は、再度PCRでチェックしているようなので、偽陽性などあり得ないと思います。
以上のことより、PCR検査を知らない人が、精度が低い!と言っていることがわかります。
そもそも、PCRの精度が低いのなら、なぜ陰性の人を市中に帰しているのでしょうか?
矛盾していますよね。。。
コメント
ぬろわ
PCRの検査プロトコルについての詳しい知見をありがとうございます。
疑問なのですが、相模原中央病院についてPCR検査で全職員の陰性が確認された=見逃しがない=PCR検査の”精度”はほぼ100%を保っているという論調で書かれおります。
しかしながら、これは医師・看護師・事務担当者を対象に2度めの検査を実施しており、他の報告でも経時的に複数回の検査を行うことで陽性に転化することが報告されております。
”感度”は「疾患のある者を「陽性」と正しく判定する能力のことを指すわけで、陰性であった報告をいくら取り上げても意味がないのではと考えますがいかがでしょうか?
また、「SARS-CoV2の診断を行う」上では検査の全行程をの結果としての陽性・陰性があるわけですから、「十分なウイルス量が咽頭や鼻腔に存在する」ないしは「そのウイルスをスワブで採取する」等も踏まえた結果として偽陰性例が少なからず出てしまっている可能性を考えます。ウイルス量にかなりのバラツキがあり不確定の要素が大きいことは報告の通りです。
PCRそのものの「RNAを増幅できる能力」に絶対の自信を持っているようですが、検査に対する課題としては着眼点が異なるように思われます。
また、タイトルから本文で感度・精度と用語を使い分けておられますが、敢えてでしょうか?
iina-kobe
PCRの検査には、必ずポジコンとネガコンを置くので、大丈夫です。
ちなみに、感染研のプロトコールですら、ウイルスゲノムがにコピー、つまり、二つのウイルス粒子がいれば検出可能とされております。
感染研のprotocolでも精度は90%以上です。
PCR自体の感度、特異度はほぼ100%です。間違えておりません。
ごろた
おそらく、PCRの精度のことを議論しているのではなく、「検体の採取」を含めた一連の流れのことを含めるとトータルで精度が落ちる、ということを言っているのではないのでしょうか…
自分自身、RNA抽出およびRT-PCRを複数回やったことがあり、PCR法の感度、特異度が低いとみなすのはおかしいという点については同意できます。所詮学部生のレベルですけど。
整形外科医
体内物質の濃度を測定してカットオフ値を定める検査と,遺伝子を増幅するPCR検査の違いを無視して感度と特異度の話をするからみんなが間違えて「有病率が低いから特異度99%でもたくさん偽陽性が出る」って言ってるんですね.スッキリしました.ありがとうございます.
Oddi
PCRについてとても勉強になりました。
PCRという「検査」はご指摘のように技術的にはとても素晴らしいものですが、PCR検査を用いて疾患を「診断」する場合は少し違ってきます。
一般的に医師がいうところのPCRの感度云々というのは、PCRの技術そのものではなくて、PCR検査における診断能力をさしているのではないでしょうか。
技術の専門の方と一般的な医者の見方というか立場の違いかなぁ、と思います。
PCR検査で陰性という結果であったとしても、病気の診断をすることは臨床的にはしばしばあります。この場合は、PCR以外の検査で診断をするわけですが、そういう検査に比較すると、PCR検査は相対的に感度は低くなってしまう、ということかと思います。
ただCOVID19の場合は、現時点ではPCR以外の診断方法が確立していないのが問題ではありますが…
iina-kobe
RTPCRはきちんとRNA操作を学んだ人がやるとほぼ100%検出できます。
ちなみに風疹の場合、90%以上です。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27243209/
もう少し勉強なされた方が良いかと。
定量PCRやったことない人
感染研のプロトコルと比べて慈恵会のマニュアルは中国のやり方をベースにしていて、速いらしいのですが、具体的にどこが違うのでしょうか。
http://jikei-tropmed.jp/covid_protocol_200407.pdf
iina-kobe
RTPCRをワンステップでやってるから速いんだと思います。
もっと速くするにはRTとPCRもワンチューブでやればいいと思います。
Oddi
勉強不足ですみません。
きちんと操作をすればほぼ100%検出できるというのはその通りだと思います。逆にいえば、検出されなかった場合、きちんと操作されていない可能性もあるということかもしれませんが、それは病気であることが前提で、一方で病気ではない可能性もあります(検査をする段階では答えがわかっているわけではないので)。
ご提示いただいた論文は、nested PCRに比べて感度は低いけれど、約90%(42/48=87.5%、90%以上ではないようですが)なので実用的であろう、とのことですね。
87.5%という数字をどう考えるかですが、病歴、身体所見、抗原検査を組み合わせますので風疹を診断するにはそれでよいかと思います。
むしろ12.5%は陰性となることですのでPCRが陰性でも除外できないということですね。
コロナも1度目はPCRが陰性でも2回目以降に陽性となることはしばしばありますし、山梨大学の髄膜炎の症例のように咽頭では陰性でも髄液では陽性ということもありました。
PCRが陰性の場合にどのように拾いあげてくるか、ということが臨床的な立場での考え方です。抗体は現時点では実用的ではありませんので。
iina-kobe
これは1サンプルの話ですから、複数サンプルを同時にチェックする普通の手法ならばほぼ100%わかります。